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生き活きケア
生き活きケア(97)認知症高齢者の徘徊を支えるGPS技術2015年8月20日16時15分

本人のQOL向上と、介護者の心理的負担を解消

0512iki.jpg 徘徊症状のある認知症患者と同居する家族にとって、昼夜問わず注意を払っておくことへの負担感は相当大きい。そうした中、千葉県野田市在住の山上武雄さん(仮名)は、認知症による徘徊症状の現れた妻の依子さん(仮名)にGPS機能付きの介護靴を使用してもらうことで、妻のQOLの向上と、自身の介護負担の軽減を実現した。依子さんも、今まで通りの近所への何気ない外出が、徘徊として家族や警察等を巻き込んだ騒ぎにならず、ふっと家族が目の前に現れて保護してくれる環境の変化に「魔法の靴だからね」と満足げ。最新技術が可能にした認知症介護の現場を追った。

認知症介護への地域社会との温度差

 千葉県野田市(人口15万5,600人、高齢化率24.3%)は県最北部に位置し、関東平野のほぼ中央に位置する。世界的にも有名な醤油の産地でもある。江戸川、利根川など水運の要所として栄え、昔ながらの町並みも多い。

 山上武雄さんは、妻の依子さん(75歳、仮名)らと同市内で暮らす。依子さんは昨年9月に転倒し大腿骨骨折で入院。現在は要介護3で週1~2日デイサービスに通うが、依子さん自身は、身の回りのことはほとんど自分でこなす。若い頃は陸上競技の選手としてもならし、最近の楽しみはデイサービスの仲間に自慢の歌声を披露すること。採点機能では90点以上をたたき出すほどの腕前。

 闊達な依子さんに、認知症による徘徊症状が現れ始めた。早朝に愛犬を散歩に連れていこうと、両腕に犬を抱え、室内用スリッパのまま外出したほか、近所の友人宅を訪れようと外出し、道がわからなくなってさまようことなどが多くなった。

 武雄さんによれば「近隣から、匿名で『家族の責任で家に閉じ込めておけ』など心無い電話もあった。認知症への社会の無理解を痛切に感じた」と振り返る。同時に「これから妻の認知症介護が始まると考えると、正直、目の前が真っ暗になった」と当時の思いを吐露する。ただ、妻の屈託のない様子を見るにつけ「外出を禁止して、閉じ込めることはしたくなかった」とも話す。

クリスマスプレゼントは「GPS搭載の介護靴」

 そうしたとき、担当ケアマネジャーが地元のケアマネ連絡会でGPS付き介護シューズ「GPSウォーク」が話題にあがったことから、製品に行き着いた。

 製品は介護靴の中敷きの靴底に小型GPS端末を搭載したもの。外観は通常のシューズのように見える。GPS位置情報により、利用者宅から一定程度離れたときには、徘徊の発生と現在位置情報をPC・スマホ・携帯に送信する。

 現行では介護保険対象外のため、全額自己負担となる。3年契約で月々2,000円の負担となるが、決断は「頑張りすぎて父がダウンすると、身近に介護する人がいなくなることが心配。月々の負担額以上に精神的な安定が得られる」と、娘が導入を決断した。PCやスマホへの情報受取り、検索機能の活用は娘の役割。

 依子さんにはクリスマスプレゼントとして贈ることで、外出時には決まってGPSウォークを履いてもらうことができるようになった。

大遠征で真価を発揮

 1月下旬、タクシーや循環バス、鉄道を乗り継いだ大遠征では、GPSの効果が最大限発揮された。武雄さんがトイレに行っている隙に、依子さんは徘徊を開始。通りかかった巡回バスに乗り込み、川間駅で下車。川間駅から電車で柏駅、柏駅で乗り換え新柏駅から周辺散策。さらに新柏駅から電車で高柳駅に向かい、タクシーに乗り換えて姉の家に向かうが分からず、再度、柏駅へ移動。柏駅から帰宅するために川間駅で下車するところ、間違えて豊四季台駅で下車。豊四季台からタクシー移動中に、タクシー会社の無線を利用して梅郷駅で待機してもらい、無事家族と合流した。家族は依子さんを叱責することなく「今度から勝手にバスやタクシー、電車に乗らないこと」と、きっちりと約束を交わし、そのまま遅い昼食をとり、帰宅した。

 食事中、武雄さんは事故に巻き込まれることなく、妻を無事に保護できたことを思い、依子さんは何処かわからなくなった時に、ふっと家族が現れたことを思い、お互いに笑顔がこぼれたという。
徘徊を「そぞろ歩き」と呼べる社会を

 機器の導入やネットワークづくりに関わった、NPO法人「ささえ愛」(☎047・375・8498)の事務局長・佐藤秀樹さんは「認知症家族を在宅で支えるツールとして活用してもらいたい。こうした先端技術を活用することで、『徘徊』というマイナスイメージの呼び方を、気ままにぶらぶら歩くことを意味する『そぞろ歩き』と呼べるような環境を作っていきたい」と語る。

 国の進める「地域包括ケアシステム」の狙いのひとつには、認知症になっても、いつまでも住み馴れた自宅で、地域に支えられながら生活することがあるが、地域の協力体制づくりは端緒についたばかり。家族への負担軽減に、ICT技術が活用された好例といえるだろう。

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GPSのおかげでタクシー乗車中に保護(実際の写真)

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