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座談会
【特別座談会】 介護の魅力とは? 人生を豊かにする仕事 (介護の日しんぶん 2018) 2019年8月 8日10時33分

 

一つひとつの支援が社会の基盤に

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 11月11日の「介護の日」を記念して行われた本紙の特別座談会。出席者は厚生労働省の福祉人材確保対策室長の柴田拓己さん、介護事業を経営する田尻久美子さん、介護従事者の森近恵梨子さんに集まっていただきました。座談会のテーマは、「私たちが支える介護の現場」。介護の仕事のやりがいや魅力、人手不足の問題に対して、どのような工夫や対策が必要かなど、介護現場の実践も踏まえ、詳しく語っていただきました。出てきた言葉は「介護でその人の人生をより豊かにできる」です。

 

介護は非常にクリエイティブな仕事

 

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 柴田 本日の司会を務めます厚生労働省の柴田です。昨年4月から福祉人材確保対策室長を務めています。厚生労働省では、介護についての理解や認識を深めてもらおうと、2008年から11月11日を「介護の日」として定め、その前後2週間を福祉人材確保重点実施期間として、国、地方公共団体、関係機関・団体が連携し、全国各地で介護にまつわる様々な啓発活動を実施しています。

 本日は介護現場で活躍するお二人に、介護の仕事のやりがいや魅力などについてお聞きしたいと思います。

 田尻 東京都大田区で在宅介護サービスを提供する会社を経営しております、田尻と申します。ヘルパーを派遣する訪問介護や居宅介護支援、福祉用具のレンタルサービスなどのほか、少し変わったところでは美容師が在籍しており、訪問美容なども提供しています。最近では介護を提供するだけではなく、「地域の暮らしを支えたい」との思いから、子育て世代のママ達に向けた産前産後サービスや、障がいをお持ちの方向けのサービスなどにも取り組んでいます。本日はよろしくお願いします。

 森近 東京都文京区にある株式会社ケアワーク弥生で勤務しています森近です。大学生の頃から介護の業界でアルバイトをしていて、その期間を含めると介護職歴7年目になります。大学時代に介護の魅力を多くの人に知ってもらうための活動などもしていて、介護や福祉の情報を発信するフリーペーパーの発行や、中高生などの学生を相手に介護の仕事について伝える活動などもしてきました。

 現在は介護サービスに従事する傍ら、初任者研修の講師や社会福祉士・介護福祉士の専門学校で講師なども務めています。

 柴田 まず初めに、お二人はなぜ介護の仕事を選ばれたのかをお聞かせ下さい。

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 田尻 私は大学を卒業してからIT企業に就職し、7年半ほど働いていました。介護業界に進むことになったのは、母を亡くしたことがきっかけです。私が24歳の時に、母が膠原病を患い、在宅酸素などもしながら、入退院を繰り返す生活を送っていました。

 当時は介護に関する知識もなく、私自身、社会人としての生活に精一杯で、十分な看病が行えませんでした。その後、母が48歳で亡くなってしまい、何もできなかったという後悔が強く残りました。同じような境遇の人の役に立ちたいとの思いが強くなり、資格も持たずに大手の介護企業に飛び込みました。

 入社した会社では人事部に配属され、日々、新卒の方の面接などを担当しました。当時は介護保険制度の創設期で、有資格者を採用すれば、その分だけ会社の利益が上がるような時代で、できるだけ多くの人を採用することがミッションでした。

 ところが、現場を見に行くと、面接時にやる気をみなぎらせていたはずの社員が、何人も辞めている現実を目の当たりし、愕然としました。そこで、まずは現場を知らなければいけないと思い、ヘルパーの資格を取得し、現場経験を積んだ後、紆余曲折を経て、自分で会社を立ち上げました。

 柴田 自ら理想となる会社をつくられたのですね。森近さんはいかがでしょうか。

 森近 大学に入学した当初は、自分が介護の現場で仕事をするとは考えていませんでした。当時は大手介護事業者による不正事件などもあり、メディアで介護の仕事の悪いイメージばかりが伝えられ、「やりがいなさそう、きつそう」と思っていました。

 私自身は社会を変える仕事がしたくて、真剣に政治家になろうと志して法学部を受験したのですが、結果として、社会政策も勉強できる社会福祉学科に進むことになりました。当時は社会福祉学科に行くのは、政策を勉強するためであって、介護や福祉の現場では働かないと思っていました。

 ですが、勉強の一環でたまたま現在働いている職場でアルバイトをすることになりました。もともと介護の仕事に抱いていたイメージが良くなかった分、「うわー、何この仕事。面白い!」と衝撃を受けました。そこからどんどん介護にのめり込みました。

 柴田 アルバイトをしていて、どんなことがあったのですか。

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 森近 この仕事を選ぶ一番のきっかけになったのが、ある認知症状を持つ利用者さんとの出会いです。その方は天気のいい日は高尾山へ行くことが習慣の方だったので、繰り返し「高尾山に行きたい」とおっしゃっていました。そのことを上司に相談すると「行ってきていいよ」と言ってくれて、ご家族ともよく相談して、実際に高尾山に行くことになりました。

 今でもその時の喜んでおられた姿が忘れられないのですが、驚いたのがその日の帰り道や、1週間後に会った時も「高尾山よかったね!」と言ってくれて、さらに数カ月後に入所された施設に会いに行ったときも「この前は楽しかった!高尾山」と覚えてくれていました。認知症は覚えられなくなる病気だと思っていましたが、「すごく印象に残ったことは覚えられるんだ」と感動し、介護が必要になっても、心から楽しかったと思える思い出づくりのお手伝いをこれからもたくさんしていきたいと思い、介護を自らの仕事に選びました。

 柴田 まさに人生を変えるほどの衝撃だったのですね。田尻さんは、特に印象に残っている利用者さんはおられますか。

 田尻 94歳で要介護1の女性で、認知症があり、お金も置いた場所をすぐに忘れてしまう方ですが、今も一人で自立した生活を送っておられる方がいます。

 元々は軽費老人ホームを利用されていたのですが、耐震工事をするために2年間部屋を出なければならなくなりました。周りの人たちは、施設に入所しないと生活ができないだろうと言っていたのですが、ご本人は自炊をすることに強いこだわりがあり、アパートで一人暮らしをすることを選択され、私たちがお手伝いをすることになりました。

 最初の頃は毎日2回、ヘルパーが訪問して生活の困りごとを解決し、生活リズムを作っていくことを心掛けました。洗濯機の使い方を一から紙に書いたり、ボタンの押す場所をわかりやすく工夫したりして、全自動洗濯機がつかえるようになったり、ヘルパーがその方専用の地図を作ってくれたりしたことで、一人で商店街で買い物ができるようにもなりました。

 認知症があっても、ヘルパーと一緒に取り組んでいるうちに、新しい土地、新しい暮らしに慣れ、今では週3回程度訪問して、入浴や掃除をお手伝いするぐらいで、あとは一人で自立した生活を送られています。このケースを通じて、自分で何とかしようとする気持ちが、その人を元気にするのだと思い知らされました。

 柴田 まさに介護保険の基本理念である「自立支援」ですね。

 田尻 ヘルパーに求められるのは、相手が求めているものを感じ取る力です。こうありたいという生活は一人ひとり異なるため、その人の希望や意欲を引き出して、置かれている環境や状況などを踏まえ、できない部分をお手伝いしたり、一緒に行うことでできるようにしていく。そこが大事だと思います。

 森近 田尻さんのお話を伺って、通じるエピソードがあるのですが、バセドー病で気管が狭まり、そこに痰が詰まって窒息死しそうになった女性の方がいました。本当に命が危ない状態から奇跡的に回復されて、私たちの小規模多機能事業所にまずは「泊まり」で戻ってくることができました。

 これから家に帰るか、それとも施設に入所するかを本人と話し合った時に、福島県の出身の方だったので「福島の施設に入所したい」と繰り返しおっしゃいました。ですが、本当にそうなのかと疑問に感じ、一緒に温泉とお墓参りを兼ねて福島に行ってみました。そうすると、帰る時間になった時、その方が初めて「東京の家に帰りたい」と話されました。やはり福島の施設に入所したいというのは本音ではなかったのです。その後、自宅へ帰られ、その方らしい生活を取り戻されていきました。

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 柴田 その方の真意を汲み取り、人生を豊かにさせる。介護は非常に奥の深い仕事です。ここで改めて、お二人が考える介護の仕事の魅力をお聞かせください。

 森近 仕事というのは誰のために、何のためにしているのか、ふと分からなくなる瞬間があったりもしますが、介護の仕事はしたことが全て相手に影響を与えるので、そうしたことがありません。自分が関わったことで、その方のできることが増えたり、力を取り戻されたりしていく。そこに確かな充実を感じる瞬間があり、仕事を続けていく上での心の安定にもつながります。

 もちろん、一筋縄ではいかないことも多く、試行錯誤の連続になることもあります。だからこそ、うまくいった瞬間が訪れた時は感動します。それを利用者、家族、職員みんなで喜び合える。そこが介護の仕事の一番の魅力だと思っています。

 田尻 私もまさに森近さんと同じで、自分やチームでかかわった結果として、その方の人生や生活をこれまでよりも豊かにすることができた時に喜びを感じます。簡単にはいきませんが、達成感を感じる瞬間が訪れるとやめられなくなります。

 さらに言えば、毎日いろんな変化や出来事が起こり、一日として同じ日がなく、飽きることがありません。「人生は小説より奇なり」と言われますが、まさにその通りで、いろいろな方の人生を垣間見ることになるので、そこから自分自身の人生を豊かにするヒントをもらうこともできます。人と関わることが好きな人にとっては、本当にお勧めしたい仕事です。

 柴田 介護というのは、その方のそれまでの人生を受け止め、理解した上で、これからの生き方を支援し、生活をつくり上げていく。非常にクリエイティブな仕事ですね。

 

どの年代でも活躍できる仕事

 

 柴田 介護人材の確保については、現在、国を挙げて取り組んでいます。労働人口が減少していく中で、必要な介護人材を確保していくために、介護福祉士を目指す学生を増やす取り組みや、介護人材のすそ野の拡大を進め、中高年齢者など、多様な人材の参入促進に取り組んでいます()。田尻さんの会社では、人材確保でどのような工夫をされていますか。

 田尻 私自身、幼い子供が3人いて、仕事と家庭の両立は大変だなというのを実感しています。ですので、職場では仕事と家庭を両立できる環境を整えていくことを強く意識しています。私の会社には、30代~40代の子育て中の方が非常に多くいるので、育児休暇を取得しやすくしたり、学校の行事などが重なった際も、お互いに助け合いながら、協力しやすい雰囲気を作るよう心がけています。また、社内にはキッズスペースも設け、子連れで会社に立ち寄るスタッフもいます。

 また、私自身がIT業界で働いていたこともあり、ビジネス用のチャットアプリを使って直行直帰のヘルパーが業務報告を行うなど、ICT(情報通信技術)ツールを積極的に取り入れ、業務の効率化や生産性の向上にも取り組んでいます。

 柴田 労働生産人口が減少していく中で、ICTやAI(人工知能)、介護ロボットなどを用いて生産性を向上させていくことは、今後、とても大事になってきます。さらに離職防止の観点からも、働きやすい職場環境の整備というのは非常に重要だと思います。

 田尻 この業界で離職者が多いのは、マネジメント層がきちんと育成されていない問題も大きいです。介護そのものが嫌で辞める人は、それほど多くないと思いますし、単純に他産業と比べて賃金が低いからとの理由も違う気がします。それより職場環境が原因で辞めていく人の方が多いのです。

 森近 そこは私も同感です。介護の人材が確保できたとしても、いかに良い仕事をしてもらえるかというマネジメントができていないと、現場は機能しません。良いマネジメントが行われ、みんながモチベーションを高めて自分の役割を発揮できれば、全体としていい仕事ができます。そこが人材確保と併せて重要な部分です。

 あとは、この仕事は内省も大事です。私たちの事業所では、1カ月に1度、常勤の正社員が非常勤や新人スタッフとチームを組んで、仕事の評価や目標をどれくらい達成できたか、悩みはないかなどを振り返る機会を設けています。それを繰り返していているうちに、「特に何の目標もありません」と言っていた職員が、ある日「目標ができたかも…」と言い出したりします。その時に大事なのが、その目標をみんなで応援する組織の風土です。

 私自身、応援されてすごく良かったという経験があるので、他の職員がやりたいといったことは全力で応援するようにしています。その繰り返しが利用者さんにとってもプラスになりますし、職員の働きがいにもつながり、事業所内に挑戦・成長していく良い循環が生まれます。

 柴田 国としても、良い取り組みをしている事業所を外から見えるようにして、業界全体をブランディング化していく必要があると思っています。また、教育分野でも2021年と2022年に中学校と高校の学習指導要領にある技術・家庭の「介護」を充実させる予定です。これをきっかけに、教育現場の方や将来を担う若い方たちに、しっかりと介護を理解してもらうことが重要だと思っています。

 

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 最後にお二人から、これから介護の仕事を目指そうとしている方々にメッセージをお願いします。

 森近 いまの日本は、世界のどの国も経験したことがない超高齢社会になっています。ですので、この分野の仕事は、これからますます必要とされますし、自分たちの創意工夫次第でもっと良くしていける、そして面白くしていける業界だと思っています。一緒に挑戦していきたいですね。

 田尻 私も他業界から転職してきましたが、この仕事は、自分が今まで生きてきた経験や仕事が一切無駄にならない仕事だと思います。若い方の良さもありますが、中高年の方ならではの経験を生かすことで、利用者さんからとても喜ばれることもあります。そういった意味では、どの年代の方でも活躍ができる仕事なのです。これだけ自分がしたことがダイレクトに返ってきて、ともに喜びを感じられる仕事はそうはないと思います。是非、一緒に働きましょう。

 柴田 本日はお二人の貴重なお話を聞かせていただき、私自身、とても勉強になりました。介護する人がいなければ、自分らしい暮らしを続けられなくなる人や、介護のために仕事を辞めないといけない人が出てきます。目の前の人を支援する仕事が、ひいてはその地域、社会を支えている重要な仕事になっています。

 これからも介護の仕事の意義や魅力を、国、地方自治体、関係団体、現場が一丸となって発信していきたいと思います。本日はありがとうございました。

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介護の日しんぶん 2018年11月11日号

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