ケアマネジャーはじめ介護・医療に携わる皆さまへ様々な最新
情報を深く分かりやすくお伝えする「シルバー産業新聞」です。

Care-new.jp

大中小 テキストサイズ変更RSS

シルバー産業新聞

座談会
【特別座談会】 自分でできるように 「介護の日」記念2019年7月18日17時27分

 

2016_kaigo-no-hi_04.jpg

 11月11日の「介護の日」を記念して行われた本紙の特別座談会。出席者は行政・ケアマネジャーの代表として、厚生労働省老健局振興課介護支援専門官の石山麗子さん、利用者・家族の代表として、元朝日新聞論説委員で国際医療福祉大学大学院教授の大熊由紀子さん、介護事業者・従事者の代表として、東京都で介護事業を展開する飯塚裕久さんに集まっていただきました。

 テーマは「より良い介護を行うために」。介護保険制度の評価や介護の専門性、認知症ケアのあり方や理想の介護など、どのような考え方に立てば現状をより良くすることができるのか。介護の制度や実態をよく知るお三方に、示唆に富む議論をしていただきました。

 

介護保険は立ち止まって考える時期にきている

 

2016_kaigo-no-hi_04a.jpg

 石山  本日の司会を務めさせていただく、石山麗子です。私は大学を卒業して、障害児の入所施設に勤務しました。その後、2000年4月から介護保険が始まり、ケアマネジャーの仕事に就きました。現在は厚生労働省老健局振興課で介護支援専門官を務めています。

 仕事として介護に携わってきた一方で、父親の介護も経験し、現在は認知症の母がおります。本日は介護を提供する側と受ける側双方の立場で発言させていただきます。

 大熊  大熊由紀子と申します。朝日新聞の論説委員だった1985年、高齢化の先輩国での寝たきり老人の様子を知りたくて5つの国を訪ねました。すると、日本なら「寝たきり老人」とよばれる人がお洒落をして自分の家に住み、外出を楽しんでいること、「寝たきり老人」という言葉が存在しないことを知って驚きました。その理由を調べて、「『寝たきり老人』のいる国いない国」という本にまとめました。その第1章は介護保険のメニューになりました。

 6年前に母が悪性リンパ腫で要介護4と認定されたとき、デンマークのケアを実践しようと決めました。ケアマネジャーをはじめ、介護サービスの方々や地域の方たちが支援してくれたおかげで、母は独り暮しの自宅で5年間、機嫌良く暮らし、最期を迎えることができました。

 飯塚  飯塚裕久です。文京区で介護サービス事業所を運営しています。もともと、祖母の代から家政婦紹介をやっておりまして、措置の時代に訪問介護、介護保険の始まりと同時に居宅介護支援事業所を立ち上げました。現在は、小規模多機能型居宅介護も運営しています。

 僕自身、学生時代からヘルパーとして働く中で、介護労働にすごく興味を持つようになりました。そうした中で、介護の現場で働く人たちが課題を話し合い、解決を目指す場が必要だと思い、2009年にNPO法人「もんじゅ」を立ち上げました。

 現在は若手の介護労働者の声を代弁する傍ら、次世代を担う介護リーダーの教育などにも力を入れています。

 

介護保険の評価

 石山  本日はこのメンバーで、「より良い介護を行うために」をテーマに議論を深めていきたいと思いますので、よろしくお願いします。さて、介護が必要になった時、私たちの国には社会保障制度として介護保険制度があります。まずは制度を詳しく知るお二人に介護保険の評価についてお伺いしたいと思います。

2016_kaigo-no-hi_04b.jpg

大熊 「物語・介護保険」の冒頭に、「介護保険制度は、崖の上に、危ういバランスで、やっとのことで建てられた家に似ています」と書きました。

 今では介護保険制度があるのが当たり前で、ここが悪い、あそこが悪いと批判されることも多く、ひどい制度だと思っている方もおられるかもしれませんが、この制度は奇跡的にできたもので、大事にしないといけないというのが私の想いです。

 奇跡が起きたのは、政治上の大事件がきっかけです。1993年に自民党が結党以来初めて、参議院選で過半数を割り、そのことで、94年、「自・社・さ政権」が誕生したからです。当時の自民党には「介護はヨメのつとめ」と頑なに主張する人や、「介護の社会化」という文字を見ただけで青筋をたてる人物が権限を持っていました。自民党単独政権が続いていたら、介護保険は日の目を見なかったと思います。

 奇跡的にできた介護保険のおかげで、母は要介護4でも自立した生活を送ることができました。とても優秀なケアマネジャーや、医師、歯科医師、看護師、薬剤師がチームになって母の家に来てくれましたし、福祉用具専門相談員が、オムツだった母を、トイレを使えるようにしてくださいました。介護保険制度がなければ、こうしたことは実現しがたい話です。

 飯塚 介護保険は施行当初から、「走りながら考える」と言われてきました。幾度となく制度の見直しが行われてきましたが、ここまでなんとか国民を転ばせることなく来ることができたと評価しています。

 でも、立ち止まってみんなで考えるという大きな動きは、この16年では創れなかった。

 社会保障制度については、現在、深刻な財政問題を抱えています。そうした状況にあっても、介護が必要になった時に、どう暮らしたいかとか、どう亡くなりたいかを真剣に議論する場が必要だと思います。そのことが、将来振り返った時に、「あの時、介護保険ができたのは奇跡的だった」と喜べる状態につながっていくと思います。

 石山  介護保険ができたことで、現在、多くの方がその恩恵を享受しています。

 「制度というのは、10年間は創った人の熱で動く。10年経ったら現場の熱で動く」という言葉もあります。介護保険制度は国だけで創るものではなく、利用する国民と、提供する事業者や従事者が一緒になって考えていく。今はそういうフェーズに入っているということですね。

 

― 自立支援

 石山  介護保険制度の基本理念に自立支援という考え方があります。自立支援とは何か、どこが大事なのかについて、お話いただければと思うのですが。

 大熊  自立の考え方は人によって様々で、「根性で頑張る」のが自立だと思っている方もいます。北欧では、ヘルパーさんが何でもやってあげるのではなく、自分ができることを手助けする。福祉用具が自立を助けています。そういう考え方が、日本ではまだ十分に根付いていないように感じています。

 石山  飯塚さんはいかがですか。

2016_kaigo-no-hi_04c.jpg

 飯塚  僕自身は、本人がいかに豊かな生活を自分で選ぶことができるかで、自立というものを捉えています。

 状態がどれだけ重くなっていても、「これがしたい」と最後まで言い続けることができる。そこを手助けするのが、僕たちの仕事かなって思っています。

 大熊  今のお年寄り、特に女性は自分で選択することを遠慮する方も多いと思います。こどもの頃からの教育も大切です。

 石山  自立支援を考える際に、できなくなったことを再び自らできるように改善していく視点は大事です。

 ただ、ややもすると、身体的な側面にだけに着目しがちなところがあるように感じています。支援者は、精神的な部分も含めてサポートできる環境作りを心掛ける必要があります。

 飯塚  例えば足が悪くなると、友達のところに行くのが億劫になるじゃないですか。そうすると、友達付き合いが切れてしまうので、それをもう一度つなぎ合わせることも自立支援だと思います。でも、そうしたことに保険の給付はつきません。参加や活動の部分で給付につながるのはデイサービスだけです。

 厚生労働省は、わざわざICF(国際生活機能分類)の考え方を持ってきているのに、「足が悪いので、筋力低下防止のために買い物に行く」とケアプランに書かないと、訪問介護の給付がつかない。それって身体的機能でしょって話です(笑)。

 利用者がいつ亡くなってしまうのか分からないので、僕たちとしては、近所に友達がいるのであれば、その人を呼ぼうとか、こっちから行こうとか、利用者の気持ちを一つでも拾ってあげたい。そこに給付が付くような形になれば、居宅の介護はもう少し豊かなものになるのではないかと思っています。

 

介護の専門性

 大熊  介護の世界では、人手不足が深刻な問題になっています。特に同様の仕事に比べて賃金が低いという現実があります。日本の介護保険のモデルとなったデンマークですと、介護職員の給与は月48万円で、学校の先生と同じくらいの待遇になっています。日本だと、若い男性の介護職員が「結婚するので寿退職」という冗談のような本当の話を聞くことがあります。

 飯塚  人手不足の問題でお金の部分は大きいですね。優秀な人は、自らの質を高めるために、年収の10%くらいは自己投資しています。

 介護業界は賃金が低いので、明らかに自己投資できる金額に差が出ます。そこを埋められるだけの給付は、介護保険にはありません。

 そうした点から介護の仕事は他業種と比べて、成長実感が持ちにくく、人が離れてしまっているところがある。僕のところでは、「カイゴラボスクール」という名称で、20~35歳までの若手の介護職員向けに無料のビジネススクールを開講して、自己研鑽するお手伝いをしています。

 大熊  有料老人ホームでの転落死事件とか、障害者施設での殺傷事件とか、人の命や暮らしを預かる現場で悲惨な事件が起きている。その根底には、介護職員の賃金が低く抑えられている現実があり、この仕事に向かない人が入職して来る業界になってしまっていることに、政治が本気で向き合わないと、日本の将来は暗いと思います。

 石山  介護の専門性として、介護技術よりも前に大事なのが、プロとして自分の感情を律する力です。そこは自分の職業に対して誇りを持つことや、研修・トレーニングによって培われるものだと思います。

 飯塚  介護の専門性の視点から介護ロボットの話をさせてもらうと、介護ロボットにできなくて人間にできることは、おそらく、「矛盾が生じても仕事を前に進めることができる能力」だと思います。

 大熊  具体的に言うと?

 飯塚  死にたいと言っているけれど、本当は死にたくないとか、息子さんを許せないと言っているけれど、財産は贈与したいとか(笑)。介護の仕事には、そうしたアンビバレントが無数にあります。

 矛盾をたくさん抱えているのが人間なわけですが、それを受け止め、仕事を前に進めていく能力というのは、介護ロボットや人工知能にはできない部分だと思います。そこを科学して、突き詰めていくのが介護の専門性であり、魅力だと思っています。

2016_kaigo-no-hi_04f.jpg

 

「誇り・味方・居場所」 が大事

 

―― 認知症 ――

 石山  介護を語る上で、重要な課題としてあるのが認知症です。いま、認知症の方は本当に増えてきています。そうした中で、認知症の方が電車に轢かれ、家族が損害賠償を求められる訴訟なども起きました。

 愛知県のケースでは、91歳のご主人が、介護をしていた85歳の奥様がうたた寝をした数分の間に、家の外に出てしまい事故が起きてしまいました。この時、徘徊感知機器の電源が入っていなかったとのことですが、24時間、気を抜かずに見守るなんて果たして本当にできるのでしょうか。

 認知症になっても住み慣れた家や地域で自由に暮らしてもらいたい。けれども、事件や事故に遭われたら困るので施設入所を選んだり、身体を拘束したりする。そうした矛盾や価値の対立に苦しんでいらっしゃる方は本当に多いと思います。認知症ケアのあり方や、どのように自分らしく暮らしていけば良いのかについて、お二人の意見をお聞かせください。

 飯塚  向かうべき方向は、縛ろうかとか、隔離しようとかではなくて、例え認知症になっても、その方が適切に自分の人生を選ぶことができる環境を整えていくことです。それを周りが応援する社会を実現するのがゴールかなと思います。

 大熊  私の母も認知症になりましたが、この分野を勉強していましたので、母のことを褒めちぎりました。台所に立つことや、よろよろしながらも一人でトイレに行けたこと。嘘やお世辞ではなく、本気で褒めました。認知症になっても機嫌よく暮らしたのは、たぶん私が褒めるツボを心得ていたことが大きいと思っています(笑)。

 石山  そこは大事ですよね。その人の人生を知るとか、大事にしてきたことを知るとか。どこに自尊心を持っているのかが分かっていると、そこに働きかけていくことができます。

 大熊  私が仲良くさせてもらっている若年性の認知症の佐藤雅彦さんは、認知機能が低下してしまって、紙とペンを渡しても、字がぐちゃぐちゃで書けません。でもパソコンのキーボードなら打つことができます。それで、ついにご自身の本を2冊も書き上げてしまいました(笑)。

 覚えたことをどんどん忘れてしまうので、タブレット端末を持っていて、そこに全部書き込んでいきます。外出する時も、どこの駅で降りるのか知らせるようにしてあって、目的の場所まで出かけていきます。毎日、フェイスブックに写真を添えて投稿しています。そうすると、みんなが「いいね!」と励ましてくれるので、一人暮らしだけれども淋しくない(笑)。認知症になっても、ITや外部記憶装置を上手く使って生活するという解決法もあります。

2016_kaigo-no-hi_04e.jpg

理想の介護

 石山  最先端のテクノロジーやロボット、人工知能が介護の分野にもどんどん入ってくることで、新しい介護の形が生まれつつあるとのことでした。

 最後にお二人が考える「理想の介護」がどのようなものかについて、お聞かせ願いたいのですが。

 飯塚  いま、認知症の話がありましたが、認知症の定義というのは、一度獲得した知能が、脳の病的変化によって著しく低下した状態で、かつ、社会生活に支障をきたす状態とされています。でも考えてみたら、僕たちも18歳頃に脳の成長が止まり、そこから少しずつ軽くなってきています。それでも、社会生活に困らないから認知症と呼んでもらえず、介護保険も使わせてもらえない(笑)。

 だから、認知症の方が社会的に困らない環境をつくることができたなら、少なくとも、世の中から認知症という言葉は無くすことはできます。そこは介護の現場が努力することで実現していくことができる。鼻息を荒くして、「日本的介護を輸出するぞ!」とかではなくて(笑)。

 大熊  私が考える「理想の介護」は、自分が過ごしたい居場所があり、そこには味方がいて、誇りがもてる状態だと思っています。でも、「理想とほど遠い介護」を受けておられる方は多いのではないでしょうか。居場所とはとても思えないような精神病院のような環境で過ごしたり、味方と思えるような、職員がいなかったり。

 ある大学の名誉教授だった方が、入居していた有料老人ホームから肺炎になって病院に入院しました。ホーム内では杖を振り回したりして、認知症の周辺症状がひどいという話だったのですが、入院中は「先生」などと呼ばれて、その方の誇りを大切にしたケアが提供されました。そうすると「君の指導教官は誰かね」とか言って、機嫌よく肺炎も治りました。でも、結局、退院先は遠方の精神病院です。

 暴言や暴力は、周りにいる人たちが味方じゃなく、敵に見えるからだと思います。自分の誇りを大切にしてくれる居場所があり、味方がいて、自尊心を大切にしてくれる。そうした「誇り・味方・居場所」が守られる全体の仕組みができたなら、「理想の介護」になると思っています。

 石山  介護保険は身近な市町村が保険者なので、行政・事業者・利用者の距離が近くなっています。本日の話を伺って、「理想の介護」を実現していくためには、みんなが地域で一緒になって考え、制度や社会を創っていくことが大切なのだと感じました。今日は長い時間、ありがとうございました。

2016_kaigo-no-hi_04d.jpg

(介護の日しんぶん 2016年11月11日号)

「座談会」カテゴリーの最新記事

シルバー産業新聞購読のご案内

発展する「シニアマーケット」の動向など、確かな業界情報はシルバー産業新聞から。

1年間(12回)
7,700円(送料・税込)
2年間(24回)
14,214円(送料・税込)
3年間(36回)
19,545円(送料・税込)

購読、書籍のお申込みはコチラ

  • 【お知らせ】電子版「シルバー産業新聞」
  • シルバー産業新聞申し込み
  • ハンドブック申し込み
  • SSL グローバルサインのサイトシール