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遠望
遠望1522013年1月16日21時34分

共用品という思想 波超え輝く普遍性 

 野鳥の鋭いこえが響き、空気が一気に冷やりとするようになった。
 

 今月初めの夕刻、都内で関係者の集まる会があった。「『共用品という思想』重版記念ミニパーティー」である。 お茶の水の駅の近くに設けられた会場に、20名あまりの人たちが集まった。
 

 顔ぶれは、岩波書店でこの本の編集を担当した高村孝治さんと山川良子さん、岩波書店と共用品の縁を結んだ大熊由紀子さん、鴨志田厚子さんほか共用品推進機構で共用品の開発、普及に取り組んできた人たち。「共用品という思想」(後藤芳一・星川安之著)は昨年1月に、岩波書店から単行本として出版された。 その後、読者の支持と関係者の尽力を得て、今回、増刷されることになった。それを記念する集まりだった。


 共用品がなぜ思想なのか。 共用品は、シャンプー容器にギザギザをつけてリンスと区別するなど、暮らしに不便さのある人とない人がともに使えるものであり、開発、利用、規格化で日本が世界をリードしている。共用品の意義は、モノの使い勝手を改良することだけでなく、幅広い利用者の存在や、利用者が求めることに気づき、当然とされてきた開発やデザインを考えなおす、不便さのある利用者も建設的なかたちで参加する、それらを通じて不便さのある人たちが社会参加しやすくすることである。
 

 これは、モノに関わりながらも、即物的なことにとどまらず、世のありようを変える、そのための心の姿勢をもつということである。そうしたあり方が、時代や分野を超えて有効(普遍的)である可能性がある。それゆえ、共用品への取組みに、「思想」という性格があるという主張である。
 

 思想とは、自然や世界のとらえ方、人の生き方の原則のようなものである。その意味で人類共通の財産であり、徳の高い姿勢で生きる人たちには、それを生んで磨く役割がある。共用品について、言葉や理念から始めるのではなく、現場の実践を基点に思想を生むとすれば、特異点のような人が理念を唱えてくっきり始まる米欧とは、別の道があると示すことになる。ふつう「思想」や哲学は、数十年前や数世紀前に作られたものが知られている。その理由は、普遍性を検証するには、世相や時代の波に洗われて試される必要があるためである。さらに、その考えを実践する人がふえて世の中が変わる必要がある。それにも時間を要する。
 

 では、共用品はどうか。共用品にも長い時間が必要か。ここで、共用品には思わぬ強みがあることに気づく。実践指向であり、団体戦で取り組んできたことである。言葉から入らなかった分、実体があり、理論で仕切らなかった分、心や感性の部分(論理より次元が上)が働いた。包装容器、家庭電化製品、玩具などの場で、送り手も受け手も参加したことは、同じ時間が過ぎたようでも、質・量で濃密な「波」を経験した意味がある。

 「共用品という思想」という本の意味のひとつは、文字にしたことで、気持ちで分かり合っていた仲間の外の、より多くの人たちに検証作業に加わっていただけることである。岩波書店から出していただけたことはさらに、こうしたことに最もチェックの厳しい人たちの目にとまり、辛い目で見ていただける可能性があることである。
 

 集まりは、元は昨年3月に出版記念の大きいパーティーとして企画された。日本点字図書館理事長の田中徹二さんが呼びかけて下さった。企画は震災によって延期され、ではまたいつか、増刷でもされれば、と仲間と夢を話していた。今回、それが実現した。
 

 本書が出版されたあと、震災や経済の厳しい局面という、波を経験している。筆者としてのひいき目かも知れないが、思想としての共用品の価値は、揺らぐどころか、一層価値を増したと考えている。実践の強い国民が、それだけにとどまるのは惜しい。一方、いきなり理念派に移るのも無理がある。実践に根ざす原理・原則を形にして、世界に寄与していきたい。

日本福祉大学客員教授 後藤芳一

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