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遠望
遠望1532013年1月30日10時16分

高野山大学小川修平記念講座 宗教と科学の対話

 「明日死ぬと思えば、今日をどう生きるか。いま、この瞬間を必死に生きること。それが、永遠を生きることになる」(大阪大学平野俊夫総長)

 先月の終わりに大阪で、高野山大学小川修平記念講座が主催する講演会「宇宙の摂理への想い―科学と宗教の立場から―」が開かれた。

 会場となった大阪市中央公会堂は、700名を超える人たちで、札止めの盛況になった。

 この講座は、精密バルブを作る中小企業であるフジキン(本社=大阪)の社長を務めた故小川修平氏の遺志で、高野山大学に設けられた。

 講座のテーマは、「宗教と科学の対話」とされた。

 講座をはじめるにあたり、9月のはじめに、開講記念式典と特別講演会が、高野山にある、高野山大学で開かれた。

 特別講演会では、高野山真言宗管長・金剛峯寺座主・高野山大学名誉教授である松長有慶氏から「仏教と科学」と題する講演があった(松長氏は、高僧の敬称である「猊下」を付して呼ばれるが、ここでは略して記す)。

 松長氏は、高野山大学の学長や日本仏教会の会長などを歴任し、スイスのダボス会議に招かれるなど、インド・チベットから日本にいたる密教史研究の世界的権威である。

 松長氏のお話のなかに、この講座の立脚点がある。要約すると、

 「かつては、アジアはもとより古代ギリシャから中世まで、宗教と科学は一体であった。ピタゴラス、コペルニクス、ガリレオ・ガリレイといった人たちも、科学だけしたのではなく、自然の中に神の造形を賛美するために科学の体系を構築した。

 その後、ルネサンスを経て、人間中心の近世文化に移った。キリスト教などの一神教の神と強い力を持つ教会の呪縛からの解放を通じて、科学が宗教から独立していった。

 デカルトの物心、二元論がそれを代表する考え方であり、物に心の要素を入れて考えることは排除されることになった。

 このような考え方が近代科学の発展、産業革命、経済的な繁栄を生んだ。

 一方その延長として、公害や地球環境問題、生命倫理など、影の側面も生んだ。

 科学の発展によって生じた、あるいは表面化した問題であり、科学をさらに発展させるという、これまでのやり方では解けないことが分かってきた。

 こうした時代のなかで、密教の教えは、課題に対処するいとぐちを提供できる。

 『一切衆生』は、人だけでなく、動物も植物も、つながりあって生きているという考え方である。

 地球がかわいそうとか、絶滅していく生物種を人が守るという感覚ではなく、もともと生きものにも人と変わらない生存権があるというところからはじまる。

 これは無生物まで神として敬ってきた民族的な感覚に、仏教の教えで裏付けを与えている。

 細分化するのではなく、全体としてみる。自分を中心として対立するものと見るのではなく、存在するものすべてが宇宙の中に包まれて一体であるという感覚である。

 多元的な視点もある。違いをみつけて排除するのではなく、多くの価値基準を用意しておいて、何かに当てはまれば取りいれていく(密教の象徴である曼荼羅の図には、別の宗教の神様までもが位置づけられている)」(フジキンの広報誌「SO(創)」の11月号に掲載された松長氏の講演録などから筆者が意訳した)

 より詳しくは、松長有慶氏の著書「仏教と科学」(岩波書店、1997年)、「いのちつながる松長有慶講演集」(高野山真言宗総本山金剛峯寺開創法会事務局、2012年)などがある。

 前者は永く品切れだったが、講座発足に合わせて復刊された。

 今年もまた、紅葉と銀杏の季節が過ぎた。生きものは静かになるが、次の季節への準備も始まっている。全部が関わり合って生きている。

 身近な自然や生きもののなかに答えがある―。我々の先達が学び、伝えてきた真理である。

 中小企業と高野山、気がつけば、日本の誇る看板どうしの組み合わせなのだった。日本の根底を支えてきた両者である。

 両者が組んで、300年あまり続いた科学のあり方に一石を投じる。東洋・日本の知恵を織り込むことでそれが可能になる。その先に、科学に新たな活躍の道が拓けるかもしれない。

 そういえば、高野山の開祖である弘法大師も、現場の実践と高野山での瞑想を往復したのだった。

日本福祉大学客員教授 後藤芳一

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