ケアマネジャーはじめ介護・医療に携わる皆さまへ様々な最新
情報を深く分かりやすくお伝えする「シルバー産業新聞」です。

Care-new.jp

大中小 テキストサイズ変更RSS

シルバー産業新聞

遠望
遠望174 考える作法 サンマ、銀杏、虫の音―本屋2014年11月 3日17時47分

 日本での徳(徳義、モラル、心の行儀)と智(智恵、インテレクト、物事を考え理解する機能)への姿勢について、次の指摘がある。

 「徳の効果を社会で形にするには智の力が欠かせない、それにも拘わらず日本では徳に偏って尊重している、おまけに徳の中身は社会を広く見るの(公徳)でなく自身の周りしか見ない(私徳)、さらに、徳は西洋に大きく劣らないが智ははるかに遅れている、智に注力すべき」

 これらは、福沢諭吉が「文明論之概略」で指摘した(岩波文庫)、書いたのは明治8年。

 次の2段落は同書からの引用(一部意訳)である。

 徳については「古来我が国で徳義と称するものは、専ら一人の私徳のみ」「自分から働きかけるのではなく、物に対して受身の姿となり」「公徳は一層貴ぶべきなのに徳義のうちに加えず、往々忘るる」「私徳の一方に偏したるもの」

 智については「数万の人を救い、万代の後に功業を遺したのは、聡明叡知の働きによってその私徳を大いに用い、功徳の及ぶところを広くしたため」「誤りの大きいものに至っては、全く智恵のことを無用とする者もなきにしもあらず」

 筆者も10年ほど前に、社会的企業(起業)をめぐって東西の文明について考えさせられた。個々のモラルが高いとされる日本ながら、社会的企業や事業モデルで、日本発で世界に広がっているものが少ないのはなぜか。

 東洋では自己は世界の要素として存在する、真理は自己の内にある、よって、外から自己の内の深くに思索が向かう(仏教が代表例)。

 一方、西洋は自己の外にある世界を自己の側から見て働きかけるとされてきた。

 よって日本では、高い徳を持って暮らしているものの、社会の指導者層や組織の意識が内に向かいがち(自らと向きあい自身の徳を高める)傾向があった。

 社会のしくみも内輪で閉じがちだ。そのため、外に向く動きが見えにくかったのではないか。

 この推論自体は違っていないと思うが、「文明論之概略」は100年余り前に、それを徳と智の面から詳しく論じていた。

 自分で考えることも大切だが、すでに説かれていることは謙虚に学ぶことが大切だ。

 昨年は岩波書店の創業100年、ことしは丸山眞男の生誕100年。日本の知をリードしてきた両者であり、書店にはコーナが設けられた。丸山の本は岩波から多く出ているので、両者を合せると2年連続だ。

 筆者は丸山眞男「日本の思想」(岩波新書)、同「『文明論之概略』を読む」(同)を経て「文明論之概略」を手にした。

 丸山は「文明論之概略」に学んだ(「これほど戦前から何回とかぞえきれないほど繰り返し愛読し、近代日本の政治と社会を考察するうえでの精神的な糧となったような、日本人による著作はほかになかった」(「『文明論之概略』を読む上」から)。

 「概略」は、西洋と比べて日本思想を考える際の原典だ。随所で深く考えさせる。

 例えば当時、西洋よりはるかに遅れているので注力すべきとした智は、今日の日本は世界をリードする位置にある。

 いまなら福沢はどう言うか。肝心の徳はどうなった、智も本質を押さえているかと、またきついタマを投げてきそうだ。

 もう一点、「概略」が書かれた時期から、ほんの20年前は純粋の日本文明のただ中にいた。それで、明治維新の前後に西洋文明が入った。よってその時代に生きた人は、一生の間に両方の文明を実地に体験することになった。

 この点、確立した文明の中にいるために過去のことは推察するしかない西洋の学者と比べると優位だ(「今の学者の僥倖とは即ちこの実験の一事にして、しかもこの実験は今の一世を過れば決して再び得べからざるものなれば、今の時は殊に大切なる好機会というべし」(「概略」から引用)。

 「概略」を書かせたのは、明治維新をまたぐ時に生きた幸運と責任からかも知れない。

 では本当に、時代の変わり目は明治維新だけで「再び得べからざる」ものなのか。

 高齢化、エネルギー、グローバル化、情報化。いまの時代も大きい境界線をまたぎつつあるのではないか。工夫次第で機会はいくらでもある。

 サンマ、銀杏、虫の音。本屋をのぞく好機がきた。

日本福祉大学客員教授

後藤芳一

「遠望」カテゴリーの最新記事

シルバー産業新聞購読のご案内

発展する「シニアマーケット」の動向など、確かな業界情報はシルバー産業新聞から。

1年間(12回)
7,700円(送料・税込)
2年間(24回)
14,214円(送料・税込)
3年間(36回)
19,545円(送料・税込)

購読、書籍のお申込みはコチラ

  • 【お知らせ】電子版「シルバー産業新聞」
  • シルバー産業新聞申し込み
  • ハンドブック申し込み
  • SSL グローバルサインのサイトシール