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遠望178 格差は自然に拡がる、r>gの衝撃2015年3月 9日09時49分

  「300年余にわたり国を問わず、富が蓄積されるとともに経済的不平等は減少していない」「1945~70年は例外的な時期だった」「その時期が資本主義の黄金時代であり自由な市場はすべての人に恩恵をもたらすという経済学の楽観的な考え方が生まれた」

 その背景は「成長率が低いと蓄積される富は労働から得られる所得より大きい=富裕層は一層豊かになり、仕事の所得しかない人はインフレ対応も危うくなる」「資本に対する収益率(r)が経済成長率(g)を上回るとき(rgは本書を象徴する表現)には、民主主義の基本になる、成果に応じて報われることを崩す不平等を生み出すしくみ」がある。

 色々な政策にも関わらず、暮らしが豊かになる実感がない/むしろ、富や所得の格差が増しているようだ/競争力が翳った国だけでなく各国に共通しているようだ。この疑問に真っ向から答える本がでた。

 トマ・ピケティ著「21世紀の資本」(2014年12月、みすず書房)。ピケティはフランスの経済学者、最初は2013年に仏で出版され邦訳は700頁を超える。

 本書はいま、関係者に大きい議論を呼んでいる。

 ただあまりに大部で、読むには経済学の基本知識も必要なので、忙しい読者は解説書でさっと見るのもお勧めである。

 「総特集ピケティ『21世紀の資本』を読む(現代思想2015年1月臨時増刊号)」(2014年12月、青土社)にはピケティ本人の対談、他の経済学者の論評もある。電車で読める。もっと時間がない人は池田信夫著「日本人のためのピケティ入門」(2014年12月、東洋経済新報社)。80頁弱なので便利だ。

 少し詳しく考えようという人には、ピケティの本文と合わせてジョン・ロールズ著「正義論」(原書は1971年、邦訳は紀伊國屋書店)や、アマルティア・センの著書がある。

 3者には相通ずる点がある。

 専門家が(ほど)大きい衝撃を受けたのは、経済学の常識が、例外的な時期の経験をもとに導かれたものだった点だ。立っていた大地は盤石なものではなかった。

 本書の主張自体は全く新しいわけではない。すでに評価されているクズネッツの研究は1913~48年の米国を対象に似た結論を示した。ピケティは10年かけた作業でこれを18世紀から現在まで、かつ、各国に広げた。例外(1945~70年の日欧の成長は戦後復興に伴う成長で生じた)の存在も示した。

 近年、格差が議論されるなかでマルクスの「資本論」を見直す動きがあった。本書の結論も同書に似ているが、著者はメカニズムは別という。

 今後を担う研究者にも示唆がある。専門知識をもとに膨大な情報を整理して元の常識を上書きした研究は他の分野にもある。

 例えばクレイトン・クリステンセン著「イノベーションのジレンマ」(邦訳2001年、翔泳社)は、コンピュータ用ディスク・ドライブ(1975~94年の全機種)などを調べてイノベーションのメカニズムを示した。ジェームズ・C・コリンズ著「ビジョナリーカンパニー②飛躍の法則」(邦訳2001年、日経BP)は、1965~95年のフォーチュン500に出た企業を網羅して11社に共通する持続的発展の条件を見つけた。G・エスピン・アンデルセン著「福祉資本主義の三つの世界比較福祉国家の理論と動態」(邦訳2001年、ミネルヴァ書房)は、8年かけて各国の社会保障のデータを整理し、福祉国家の3つの姿を示した。それぞれ経営戦略(イノベーション)、企業経営(持続的発展)、社会保障(福祉国家)の分野だ。

 分野を俯瞰的に見ると、研究手法としては先例があると分かり、内容に集中できる。大事な点は、ピケティは経済学(の中心的な流儀や姿勢)に批判的で、歴史学や社会学の視点を含めることでより深く実践的な結論を導いたことである。複数分野の視野と専門性を持ちたい。

 「格差」は今後、国内外で最重点テーマになろう。ピケティは、極端に集中した富には国際的に協力して累進的な税をかけてはと提案する。抜本的な策を要するだけに、議論と取組みは軽く10年単位になりそうだ。

 本書は課題の正体を指摘し、政治や政策の担当者には施策を示し、市民には施策が「何に向けて何が行われているのか」を予測可能にさせる意義がある。

日本福祉大学客員教授

後藤芳一

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