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シルバー産業新聞

福祉用具ノーリフティングで地域課題解決2020年4月 2日07時05分

「おもと会」 ケア・クロッシング寄宮 (沖縄県)

常設展示・研修・体験型「ノーリフトラボ」整備

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 沖縄県内に病院・保健施設・介護福祉施設・教育施設など56施設を展開する「おもと会グループ」(本部:沖縄県那覇市、石井和博理事長)では、ノーリフティングへの取り組みに留まらず、日本ノーリフト協会(神戸市、保田淳子代表理事)とパートナー契約を結び、体験や研修、学習ができる常設展示場「ノーリフトラボ」を2019年8月に開設した。グループ内のノーリフトケアに関する情報発信・学習・体験拠点であると同時に、沖縄全体にノーリフティングケアを浸透させるため、他法人の施設関係者らにも開放するのが特長。リフト機器等は世界的リフトメーカー「リコ」(スウェーデン)製品を取り扱うシーホネンス(大阪市、増本龍樹社長)がコーディネートし、提供している。

グループ従業者・学生2800人

 60年の歴史をもつ「おもと会グループ」は、沖縄県南部の那覇市、豊見城市、宜野湾市、与那原町に56施設を展開する県内有数の医療・介護・福祉グループ。医療法人、社会福祉法人、学校法人の3法人からなり、現在、国が推進している医療介護連携や、人材不足が深刻となる中で医療介護職養成なども先駆的に取り組んできた。

 現在、グループ従業員・学生数は約2800人を数えるが、一人ひとりを大切にし、能力を発揮することが、利用者・患者へのより良いサービス提供につながるとの考えから、2012年には「こころと体のヘルスケアセンター」(石井民子センター長)を開設。センター長(産業医)やカウンセリング担当(精神保健指定医および産業保健師)といったセンター専任の医師・保健師を配し、ヘルスケアトレーナー(健康運動指導士)も有する万全の体制を完備している。

 こうした従業員ファーストの取り組み成果は、医療・介護離職率に顕著に表れており、16年には「沖縄県平均24.1%」「全国平均14.8%」に対して、同法人は11.4%となっている。

「抱え上げないケア」でプロジェクト始動

 そうした中で18年4月より動き出したのが、抱え上げないケアにより、負担ゼロを目指す「おもと会からケアを変えるプロジェクト」。

 きっかけは17年8月にヘルスケアセンターが実施した法人内職員アンケートで、67.3%が腰痛の経験があると回答したこと。その対応として、ノーリフティングに取り組むという解決策があることを知り、法人本部に働きかけた結果、根本的にケアのあり方を変える必要があるとの共通認識のもと、理事長をトップにしたプロジェクトが始動した。

組織課題を「他者」を巻き込んで解決へ

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 法人本部理事の石井隆平氏は「組織の課題をソーシャルデザイン発想で解決する」と話し、法人内の課題解決には、他法人や他組織を対話に巻き込んで、地域社会ごと変革を目指す必要性を強調する。

 プロジェクトリーダーで、法人グループの養成学校で後進の指導にもあたる金城知子氏(作業療法士)は「作業療法士のカリキュラムに『地域作業療法学』としてリフトに関する講義と演習を実施している。卒業生や在校生はリフトやスライディングボードの活用など、福祉用具を使ったケアが浸透している。卒業後、法人外の施設に就職した作業療法士についても、ノーリフティングが当たり前の文化を広げてくれている」と、これからを支える人材教育の一環として、ノーリフティングを当然ととらえる人材育成が軌道に乗り始めていることを強調する。

ノーリフトケア熟知の人を育成し、仲間を増やす

 法人施設でもノーリフティングの実践が進んできている。31施設にリフトやスタンディングマシン、ターンテーブルなど63台が導入されている。コーディネータ育成に関しても、20年2月時点で「ノーリフトコーディネーター登録」6人、「アドバンス修了」15人、「ベーシック修了」25人と、ノーリフティングを波及させていく人材育成も進んでいる。

 金城氏は「リフトやスライディングボードは欠かせない道具になってきた。機器・用具の所在が分からなくなると、皆で探し回るほど現場に定着してきた」と話す。効果に関しても「職員の負担軽減による腰痛予防効果のほか、利用者・患者の皮膚のコンディションによる剥離や内出血などが減り、安楽なため筋緊張亢進や変形拘縮の予防になっている」という。

利用者・患者をみて用具を適切に使用

 同法人で用具活用の判断は▽座位が不安定になった人にはリフトを検討▽立位の支持性、座位バランス、上肢の使用である程度の残存能力があり、協力動作ができる人にはターンテーブル、スタンディングマシン、スライディングシート、スライディングボードなどを検討――と基準を設定している。

生産性向上でのリフト、機器活用の意義

 金城氏は「よくリフトを使うのには時間がかかりすぎるという意見を聞くが、習熟とともに時間短縮が進むことや、かえって腰痛を我慢しながらの作業は効率が低下すること、2人掛かりの移乗より、1人でも移乗介助ができるリフトの方が、生産性が高いという見方もできる」と生産性向上でもリフト活用が優れるという。

リクルーティングでの優位性も

 石井理事は「リクルーティングでも、当法人グループの介護職エントリーで『ノーリフトケアに関心があります』と問い合わせいただくなど、人材確保でも優位に働くようになった」という。

 「ノーリフティングは介護する側、される側双方に負担軽減の効果が期待できる。介護人材不足が叫ばれる中で、介護職を大切にしないことによる離職や労災申請などの経済損失は、08年の経済産業省の試算で6500億円にもなる。日本を代表するノーリフティング推進の団体である、日本ノーリフト協会とパートナーシップを締結し、地域社会ごとノーリフトケアを文化にまで広げる活動に取り組む」と、沖縄県をノーリフトケアの先進地域に引き上げる強い決意を語る。

研修施設に「ノーリフトラボ」開設

 その強い想いを受け、19年8月には、法人グループの小規模多機能型居宅介護の建て替えに際し、3階建の「ケア・クロッシング寄宮(CC寄宮)」を開設。3階フロアには法人職員のための研修センター・ラウンジとともに、リフトを常設展示し体験ができる「ノーリフトラボ」が入居する。1階は福祉用具事業所と事務所、2階は小規模多機能型居宅介護事業所。

 研修フロアのトイレは、日本ノーリフト協会代表理事の保田淳子氏監修の後付けリフトが備わっている。「あえて後付けリフトとすることで、一般の在宅トイレの改修でできることが体験しやすい。移乗トレーニングでも活用している」と石井理事。

専門職向け、家族向けイベントも開催

 ノーリフトラボは、世界的リフトメーカーであるスウェーデン企業「リコ」製リフトを取り扱うシーホネンスの全面協力により実現。同社ベッドや高機能車いすなどとともに、整然とレイアウトされている。

 金城氏は「沖縄でこれだけの機種を常設展示することは大変。シーホネンス社の協力に感謝している。ラボに来場いただくことで、これだけの機種を試すことができる環境は、全国的にも恵まれているのではないか」と満足気。

 オープン以来、地域のための開放されたラボとしての役割も果たしており、19年11月に厚労省委託の腰痛予防講習会の会場となったほか、同年12月に日本ノーリフト協会スペシャルイベントを開催、20年1月に福祉用具プランナー研修で使用されるなど、地域の医療介護関連職種の集う「場」として定着している。今後も定期的に「プロ向け」「家族向け(プレフレイル者、要介護者)」などのイベントを予定している。

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