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福祉用具ウィズコロナ時代の福祉用具活用を考える2020年7月22日14時46分

 福祉用具は本人のしたいことをできるようにし、介助する人の負担軽減も実現できる。現在では、筋緊張による拘縮軽減や、介助者の腰・関節等への身体負担軽減の観点から、介護リフトやスライディングボード、スタンディングマシン、ポジショニングクッションなどを活用したノーリフティング(抱え上げない介護)を推進する介護現場も増え始めている。日本から拘縮をなくすため抱え上げない介護の啓発・教育・取り組み支援などを行う「こうしゅくゼロ推進協議会」松尾清美代表理事▽国内主要ベッドメーカーで構成され、医療介護ベッドの安心安全な使い方などの啓発を行う「医療・介護ベッド安全普及協議会」高屋玲氏▽作業療法士で、元厚生労働省福祉用具・住宅改修専門官も務めた福祉用具メーカー「アルジョ・ジャパン」山下陽子氏――に参加いただき、6月30日にテレビ会議システムによる座談会「ウィズコロナ時代の福祉用具活用を考える」を開催した。コロナ禍であっても、生活上不可欠な医療・介護・福祉サービスは「感染対策の上でサービスの継続」が求められることから、感染リスクを軽減するための福祉用具活用による新しい介護様式についても、活発な議論が交わされた。

 

「抱え上げない介護」による新しい介護様式

福祉用具でできることを実践してもらうために

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高屋玲氏 医療・介護ベッド安全普及協議会が実施した調査・研究事業の中で、福祉用具の使用により、介護負担の軽減ができたこと、介護サービスの質の向上ができたこと、介護職員のやる気が出たことなどを効果として報告しています。

例えば介護ベッドでは、背上げ機能による起き上がりから、端坐位、立ち上がり、移乗・移動といった一連の流れが、本人や介助する人の両方にメリットがあるということです。

背上げ機能のないベッドや布団の場合、身体機能が低下すると起き上がることが億劫になり、寝たきりが進んで介助者の負担が大きくなることがあるのですが、介護ベッドの背上げ機能ひとつだけでもそのような事態を防げる可能性があります。

ただ、介護の現場は多忙を極めることもあり、背上げ機能を使わずに、抱え上げる介助を続けている介護職の方々も多くおられます。福祉用具の利便性や可能性を介護に関わる方々にもっと広くお伝えしたいと考えています。

山下陽子氏 介護リフトや様々な福祉用具を扱うメーカー「アルジョ・ジャパン」勤務です。最近では、国や自治体の補助金活用により介護リフトなども導入していただきやすくなっています。

その補助金についても機器導入費用の支援だけでなく、使い方などの研修についても支援されるなど、本当に現場に根付くまで支援してくれる使い勝手の良いものになっています

松尾清美氏 背景には高齢社会の進展があると考えます。30年前から総合せき損センター医用工学研究室での退院時支援ではリフトを設置していましたし、佐賀大学での高齢者支援や講義では20年前から移乗のためのリフト活用の必要性や座位移乗を伝えてきましたが、それは「重度障がい者のための支援」と考えられていたようで、「高齢者のために移乗リフトを使いましょう」とはなっていませんでした。

高齢者には人の手による移乗があたたかいという考えが根強くあり、日本での抱え上げない介助の普及を遅らせていたことがあるのではないかと思っています。

介護人材不足や社会保障改革、高齢化の進展など課題山積の中で、やっと高齢者にも移乗リフトなどを活用したケアを進めることが動き出したのでしょう。

広がる「抱え上げない介助」

山下 リハビリ専門職の養成課程でも、以前はリフト移乗について多く教えなかった。担当の先生によって、どれくらい勉強するか変わってくる状況でした。

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ただ、最近では学校に備品として移乗リフトを増やす方向が示されており、少しずつ状況は変わってきています。以前は床走行リフトだけだった学校備品も、天井走行リフトも採用されるようになっています。国際福祉機器展(H.C.R)などで移乗リフトの説明をしていても、学生で移乗リフトのことに関心を示す人が増えてきています。

移乗に関する意識は若いセラピストに芽生え始めているようです。

松尾 大分県の大分南高校では「抱え上げない介助をしている施設でないと、生徒を就職させない」と就職担当の先生がおっしゃっていただくほど、状況は変わり始めています。

先駆地域である高知県では、9割の介護施設が抱え上げない介護に取り組まれているようです。

真正面に入らないケアの実践

介助者と本人の「最適な距離」確保のために

松尾 新型コロナ「第2波」の懸念がある中、介護現場にも新しい介護様式を探る動きが出始めています。これについて、私は福祉用具を活用することで感染リスクを軽減することができるのではないかと考えています。

つまり、密接にならざるを得ない介助動作を、福祉用具の活用でいかに改善していくかということです。

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高屋 「抱え上げる介助=密着する」なので、福祉用具の活用による抱え上げない介護の実践によって、密着を回避できうる点はあります。ただ、フィジカルディスタンシングという意味では、世界保健機構推奨の「1m」、厚生労働省推奨の「2m」を福祉用具活用だけで確保するのは現実問題として難しいです。

しかしながら、リスク低減の意味で「密着しない」に越したことはないので、福祉用具の活用は有効であると思われます。

松尾 その通りで、ゼロリスクを目指したフィジカルディスタンシングの徹底は、介護の世界では無理でしょう。しかし、徹底した感染予防と合わせて、介助者も、利用者も「相手の呼気中のゾルを真正面から吸い込まない」ことで感染リスクを抑えることができると考えます。

具体的には、後方介助や、側面介助を実践するということです。新しい移乗パターンとして、移乗リフトやトランスファーボードなどを活用することで、ゾルを吸い込まないことは可能ではないでしょうか。

後方介助は介助者にとって負担が少ないというメリットもあります。

山下 これまで抱え上げない介護の特長として、利用者の表情が見えるアイコンタクトを掲げてきたのですが、これからは相互に感染しにくい・させにくい介助ができることも掲げていきたいと考えます。

ただ、現時点では十分なエビデンスがない状態ですので、これからはエビデンスを集めて、きっちりと説明できるようにしていかないといけないというのが私個人の思いです。

後方・側面介助の実践

松尾 これからの介護様式は、マスクやフェイスシールドなどを装着していてもできるケアが求められます。その意味でも後方介助や側面介助は実践的であると言えます。確かに介護リフトを使った介助は時間がかかるかもしれませんが、自分も利用者も感染リスクを軽減させながらできるケアという意味で優れていると思います。

高屋 最近のベッドで申し上げますと、従来の背上げ、膝上げ、昇降機能だけでなく、背上げ時に飲み込みやすい姿勢を取れたり、骨盤を起こして安定した背上げができたり、座位から立ち上がりまでサポートするような機能もあります。それらの機能を活用していただければ、正面から密着して抱えあげるような介助も減らすことができ、介助者の負担軽減にもつながります。

大切な用具の消毒

松尾 課題もあります。新型コロナ感染予防のため、介護リフトのスリングシートは人数分用意して「自分専用」にしていただくことが理想で、最低でも毎回消毒を徹底するなど、決して使いまわしをしないで頂きたいのですが、コスト面からも難しいのが現状です。毎回消毒についても消毒剤が入手困難で、購入価格も決して安くはないようです。

こうしゅくゼロ推進協議会のメンバーである石橋弘人副代表や、山形茂生教育部会長は介護現場を訪問して、抱え上げない介護のコンサルティングなどをしていますが、感染予防の為に一人一枚のスリングシートを用意することは、コスト面から実現しにくいと聞いています。

福祉用具は、これまでの自立支援・重度化防止や介護負担軽減の効果に加え、新型コロナ感染リスク軽減でも貢献できると考えますが、モノを介して感染する「交差感染」を想定した製品づくりも求められると考えます。安心して福祉用具を使ってもらうように、メーカーも推奨される消毒方法などの情報提供が求められるようになるでしょう。

山下 それに関して、たとえばアルジョ社の製品は交差感染の防止のため、消毒のしやすい製品設計がなされています。リモコンなどの防水設計により、アルコール消毒などをきっちりとしていただけます。

松尾 余談ですがデンマークの病院のベッドはスチーム洗浄できるようにつくられています。患者が退院すれば全体をスチーム洗浄して次の患者のために準備されています。

高屋 日本でも大学病院など大きな病院ではベッドを丸洗いで洗浄する設備があるケースもありますが、現在は清拭での消毒が多いようです。いずれにせよ洗浄・消毒に配慮した設計がベッドにも求められます。

松尾 私の感覚ではスライディングシートを含め、肌に触れる部分は下着と同じで、自分のものを使うべきと考えます。

そうした中、間もなく始まる国の1次補正や2次補正での「サービス継続支援事業」による、介護現場へのコロナ対策でのかかり増し費用の助成に期待するところは大きいです。

新型コロナの影響で、積上げてきた「抱え上げない介護」の流れを止めたくはないという想いがありますが、ウィズコロナの時代とともに、抱え上げない介護の有用性が、改めて見直される流れになってきたと感じています。

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